内山 節 ライブラリ

『ローカルを積み上げていく時代に』内山節インタビュー

『ローカルを積み上げていく時代に』内山節インタビュー

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※本記事は、(公社)国土緑化推進機構が発行する機関紙「ぐりーん・もあ
 2018年第83号に掲載された特集の転載記事です。
 内山節へのインタビューは、2018年6月16-17日実施された
「森林と市民を結ぶ全国の集い2018 in 東京」後日に行われたものです。
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 今回の「森林と市民を結ぶ全国の集い」以下「全国の集い」は、SDGs(持続可能な開発目標)を意識したものでもある。そうした国際的な目標が掲げられ、世界がそれに向けて動き出している時代に、地域はどのようであるべきなのだろうか。あらためて「全国の集い」の実行委員長でもある内山節さんに聞いてみた。

シンクローカリー、アクトローカリー

 SDGsは持続可能な社会を目指すための国際的な目標であり、17の目標、169のターゲットが掲げられている。つまり、本当に持続可能な社会を目指すためには多種多様な課題があるということだ。

「例えば世界レベル、国レベルで持続可能性を考えた時に、森林・林業業界であれば “炭素排出量を抑えましょう” といった話になりがちです。もちろん、炭素排出量は抑えたほうがよいのですが、それができたから世界は持続可能になった、とはなりません。ほかにも、いろんな課題があるからです。率直に言えば、持続可能性というものは、ローカル世界においてしか成立しないのではないかと感じています。」
と内山さんは言う。

 内山さんは、東京と群馬県上野村で半々に暮らしている。上野村は、木質ペレット工場をつくって村内で生産される木材を無駄なく利用し、できたペレットを村内の熱源や発電に使うなど、村の森林資源を計画的に活用した経済循環を目指している。また、そうした取り組みが雇用促進にもつながり、Iターンによる定住者が人口の1割以上となっており、地方創生が課題となっている現在、多方面から注目を集めている。

「森林資源の活用やエネルギー問題だけではなく、上野村を持続可能にしていくためには、ほかにもいろんな課題があります。例えば、Iターンの人たちは若い世代が多いのですが、そうした親子の溜まり場をどうつくればいいのか、といったこともそうです。
 昔は勝手に人の家に入り込んでいけるような関係性があったのですが、さすがにいまは、そんな雰囲気ではありません。そこで上野村では、静かに本を読まなくてもいい図書館づくりに取り組んでいて、そうした親子が積極的に活用できるようにしています。
 上野村くらいの地域であれば、そうした様々な課題を全て頭の中に入れて、持続可能性に向けた様々な取り組みをすることができますが、国や世界レベルでは、そうはいかないのではないでしょうか。」

群馬県上野村のペレット工場。
上野村は、かつての里山文化にあった森林資源を無駄なく利用していく暮らしの仕組みを、
現在のテクノロジーで再現しようとしている。

 地域は本来、そうした様々な関係の集積で成り立っており、それらが上手く噛み合ってこそ、持続可能性な地域となる。そして、そうした関係性ができた地域が集積していくことによってはじめて、世界全体が変わっていくということだ。 『ぐりーん・もあ』Vol・81の特集「SDGs時代の森林」の中で登壇している足立直樹さん((株)レスポンスアビリティ代表取締役)は、「SDGsは俯瞰的に世の中を考えている人々にとっての課題。持続可能な社会を目指すには、森林などの自然資本を基盤とした地域経済をもう一度つくりだし、新たな価値を生み出していくことが大切だ。」
と言っている。

「シンクグローバリー、アクトローカリーと言われていますが、本当はアクトだけではなく、シンクもローカリーであることが大切なのだと思います。」
と内山さん。

持続可能性と伝統回帰

 内山さんは、全国の集いのパネルディスカッションや、最後のまとめで、「これからは伝統回帰の時代」とし、「私たちの暮らすこの日本は、どういう風土であり、人々はどのように森林を管理し利用して、どのように地域社会をつくってきたのか。これからを考えるとき、そうした姿勢が欠かせない」と言っている。

「それはつまり、近代の失敗をちゃんと見ようということでもあります。近代は対立の時代をつくりました。自然と人間、都市と農山村、国同士でもそうです。普通の暮らしの中でも、喧嘩をする気はなくても仕事の上では勝たなければいけないという時代でした。そうしたことが現在の様々な問題を引き起こし、結果として持続可能ではなくなってしまったのではないでしょうか。
 持続可能性を考えるならば、必然的に近代以前への回帰が必要になるのです。もちろん悪いことまで回帰する必要はありませんし、最新の技術を使ってもよいのです。例えば上野村では、地域エネルギーで暮らしていた時代に回帰しようとしているわけですが、なにも炭や薪で暮らそうというのではなくて、ペレットで発電までしているわけです。」

 シンクグローバリーから地域を考えると、どうしても隣を見て比べざるを得ず、対立が生まれてしまう。シンクローカリー、アクトローカリーとは、まずは自分たちだけを見ることで自分たちが変わっていくことが必要だということだ。とはいえ、それは閉鎖的になるということではない。伝統回帰といっても、自給自足社会に戻ろうということではなく、外とのつながりは不可欠だ。

「言い換えれば、自分たちだけを見るが故に広い世界を必要とする時代、ということなのかもしれません。例えば、かつての上野村は生糸の産地で、長崎や横浜経由でヨーロッパに輸出していました。もちろん、当時の村民が地球上のどこにヨーロッパがあるかなんてことは知らなかったでしょうが、自分たちの営みが世界とつながっていることは明確に知っていました。
 いま上野村では、単なる観光客としてお金を落としてもらうだけではなくて、長くつきあっていける外国の人を呼び込んでいこうという動きがあります。そうした関係を見直すことも、伝統回帰の一端なのです。」

対立の時代から和解していく時代へ

「近代を対立の時代とするならば、これからは和解していく時代なのかもしれません。
それは森林と人間、農山村と都市でも同じことが言えるのではないかと思います」
と内山さん。

 かつて森林と人間との間あった多様な関係を取り戻すことも伝統回帰である。そのためには、かつてあった関係のあり方、森林の価値をあらためて見いだす必要がある。近年、森林づくり活動や森林をフィールドとした活動が多様化していることを、特集1では”森の価値“が変わりはじめているとしたが、それは、森林と人間の和解が広がってきたことによって、かつてあった森林の価値があらためてクローズアップされてきたということなのかもしれない。

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 ※本記事は、(公社)国土緑化推進機構が発行する機関紙「ぐりーん・もあ
  2018年第83号に掲載された特集の転載記事です。
 森林と市民を結ぶ全国の集い2018 in 東京
(主催:国土緑化推進機構/森林と市民を結ぶ全国の集い2018 in 東京 実行委員会)
 2018年6月16日~17日@上智大学   プログラム・実施レポート(PDF)
全国の集いFacebookページ:https://www.facebook.com/tsudoitokyo/
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