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2021年7月31日

ヤマビルの生態 ~森づくり活動中のヤマビル吸血への対策①~

ヤマビルの生態 ~森づくり活動中のヤマビル吸血への対策①~

森づくりや登山など、森林内での活動中にヤマビルに遭遇したことはありませんか?
近年、里山を中心にヤマビルによる吸血被害が多発しています。
ヤマビルの生態を理解し、事前の予防対策をすれば、遭遇しても吸血されるリスクを
下げることができます。
本シリーズ全2回で、ヤマビルの生態と吸血予防対策を紹介いたします。

ヤマビルの生態・どんなところにいるのか

 ヤマビルはミミズやゴカイの仲間の環形動物門に属している生物で、ヤマビル科ヤマビル属の1種です。 冷温帯の秋田県以南から亜熱帯の沖縄までが生息範囲ですが、沖縄県石垣島や西表島はサキシマヤマビル、東京都硫黄島はイオウジマヤマビルという亜種になります。

 日本には約60種のヒルが生息していますが、吸血するヒルは、陸生種のヤマビルと水生種のチスイヒル(田んぼ等にいた緑色に黄色の筋模様のヒル)の2種だけです。フィールドで見かける頭部が笄状で黄色いコウガイビルはヒルの仲間ではなく、吸血もしません(もっぱらミミズなどを捕食しています)。 体型はやや扁平な円錐形で体長は成熟個体(成体)で、静止時20~30mm、伸長時40~60mm。体色は赤褐色で、背中に3本黒い縦線が入ります。身体の前後に強力な吸盤を持ち、頭部側の吸盤の中心部に口器を持っています。

 普段は森林内の落ち葉など下に隠れていますが、寄主であるヒトや動物の発する呼気(CO2)、震動、熱、臭気に反応し、身体の前後の吸盤を使って尺取り虫の様に寄主へ近寄ります。

 その移動速度は、林床(落ち葉の堆積地等)で70cm/分、衣類では130cm/分という比較的早い速度で移動することができます。また強力な吸盤を有しているため、靴底を含めて寄主のいずれかに触れることさえできれば取り付くことが可能で、取り付いた後は足下から1分ほどで首筋に到達することが可能です。

血吸い行為

 ヤマビルは寄主の皮膚に取り付くと直ぐに吸血行動に移るのではなく、皮膚の上を影や隙間へ移動し、皮膚の薄いところや、傷などがある肌の弱いところを探し見つけると、頭部側(身体の細い方)の吸盤で喰い付きます。この吸盤の中にあるノコギリの様な鋭い口で皮膚に傷をつけ流血させこれを吸血しますが、この際に血液を凝固させないためにヒルジンという血液凝固阻害物質を傷口に注入します。また、吸血中は同時に濃縮を行うため血液中の水分を体表から排泄します。吸血を開始したヤマビルは満腹になるまで吸血を続けます。吸血量は吸血前体重の約6倍で、かかる時間は1時間以上です。満腹となったヤマビルは自然落下し、落ち葉の下に隠れて産卵の準備や、次の吸血の準備をおこないます。

 ヤマビルの吸血時には、蚊の痒み、虻の痛みといった症状はなく、またマダニのような吸血による感染症感染や、ハチ刺傷の際に問題となるアナフェラキシーショックについては、今のところ報告はなく一般的には無害と言われています。ただ、傷口に残ったヒルジンのため血液が凝固せず2時間ほど流血が続くため、衣服が真っ赤に血に染まり吸血に気が付くことが多いです。また一度血液凝固しても入浴等で再度流血することがあります。

 ヤマビルは乾燥に弱いですが、気温10℃以上、湿度60%以上であれば四季を問わず吸血活動が可能で、寄主である動物が排出するCO2濃度が自然界濃度の2倍以上(800ppm以上)を関知すると採餌行動をとり、寄主に20~30cmと近づくと、体温を手がかりに寄主に取り付きます。ヤマビルの多いフィールドでは、360°全周囲から、こちら(寄主)に向かって一切の迷いもなく、急ぎ足でやってきて取り付く様子を観察することができます。

コラム

1.ムクロジの実はヤマビルを遠ざける?

 ムクロジの果皮にはサポニンが含まれていて、サイカチ同様に石けん代わりになることが知られていますが、この果皮を浸けた水がヤマビル防除に効果があるといいます。

 サポニンは、サポゲニンと糖から構成される配糖体ですが、界面活性作用があるため細胞膜を破壊する性質があります。この作用がヤマビルを近寄らせないのかもしれません。サポニンは水溶性であるため、水で簡単に抽出することができます。

 サポニンを含む主な植物は、サポンソウ、サイカチ、ムクロジ、トチノキ、エゴノキ等。特にサイカチ、ムクロジは高濃度で存在します。

2.ヤマビルは溺れない?

 ヤマビルは水に浸かると溺れてしまうという説があります。これが本当だとすると大雨による流水により多くのヤマビルは溺れ死んでしまうのではないか?とヤマビルの多いフィールドでは期待が高まります。

 2018年に水に沈んだ状態でのヤマビル生存期間を調査した論文が発表されています。この論文によると生体重が0.3gを超える個体では全体の45%が10日以内、30日以内に100%が死亡したが、0.3g未満の個体は全体の50%が70日間生き延び、最大94日間生き延びた個体もいたと報告されています。このため、先日の台風19号の様な大量な降雨の結果、急激な流水によるリターの流出は、その下流の新たな場所へ移動・分布の拡大に繋がる可能性もあります。

3.ヤマビルは、ほ乳類のみ吸血するのか

 2013年の短報で、神奈川県の東丹沢にてヤマカガシを吸血するヤマビルが報告されています。また、他にもヤマビルの吸血した血液のDNA鑑定を行ったところ、キジのDNAも確認されています。

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ヤマビルの対処と予防 ~森づくり活動中のヤマビル吸血への対策②~

記事文章:森中大晴(森の安全を考える会
写真:森づくりフォーラム

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