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2021年8月24日

ヤマビルの対処と予防 ~森づくり活動中のヤマビル吸血への対策②~

ヤマビルの対処と予防 ~森づくり活動中のヤマビル吸血への対策②~

血を吸われた時の対処

 ヤマビルの吸血にあった場合、ヤマビルがまだ取り付いている(吸血中)か、既に吸血が終わっているかで対処が変わります。

 ヤマビルがまだ取り付いている(吸血中)の場合、まずはヤマビルを除去することが必要です。この際、むやみに引き剥がすと、傷口に鋭い歯が残りチクチクとしたり、化膿したりすることがあるため、必ず自ら離脱させます。方法は、塩を振りかける、消毒用アルコール、メントール系ローション(シーブリーズ®等)、ハッカ水、食塩水を吹きかけます。これでヤマビルを除去することができます。

 その後、既に吸血が終わっている場合同様に、次の手順で処置を行います。

(1)綺麗な水で傷口を洗い、汚れを落とす。また、ヒルジンは水溶性物質なので流水で洗い流すことも効果がある。または手持ちのポイズンリムーバーでヒルジンを吸い出す。

(2)傷口を消毒する。前述した通りヤマビルには感染症感染の心配はないが、傷口を不衛生にしておくと、破傷風菌等のばい菌による感染症にかかることがあるためこれを予防する。

(3)バンドエイド等の衛生剤で傷口を覆い、感染症を予防し、流血による汚れを防止する。

 フィールドでヒルを見つけたら、その周辺に生息していると考え、以下の装備(対策)をとります。

∙ 足下からの侵入を防ぐため、靴、ズボンの口をガムテープで覆い閉じる。この時、紐靴の場合であれば、紐のところもガムテープで覆い、足袋の場合、はこぜ(鞐)部分をガムテープで覆う。

∙ 靴、長靴にヤマビル忌避剤を塗布する。市販のヤマビル忌避剤(ヤマビルファイターエコ、ヒル下がりのジョニー等)や、ママレモン等の台所用洗剤原液、ハッカ油等を全体的に塗り込む ∙ ズボンの下に厚手のパンティ・ストッキングを着用することで、ズボンの中に入り込んだヤマビルから吸血を防ぐことができる。さすがにパンティ・ストッキングは無理というかたは、登山やスポーツ用のサポートタイツ(C3fitタイツ、サポーテックライトタイツ等)なども同様の効果があるが、いずれも綿ではなく、ポリエステルやポリウレタンといった化繊生地を使う。

∙ 靴下も同様に厚手の化繊生地のものを履く。登山用の中厚手のハイソックスや、足袋の場合はモンベルのウイックロン・サワークライムソックスは先割れタイプのため使いやすい。

∙ 首筋をタオルや手拭いで覆い、上部からの侵入を防ぐ。ただし、定期的にタオルや手拭いにヤマビルが取り付いていないか確認すること。

∙ 背負い籠やザックを地面に置かない。休憩の為に地面に置いたザックや背負い籠へヤマビルは飛び移ることが知られている。飛びついた事を知らずに背負うと、気が付いた時には首筋や髪の毛の生え際で吸血していることもある。

 

ヤマビルが取り付いたら以下の方法で払い落とします。

∙ 塩を振りかける・・・塩をひとつまみヤマビルに振りかける。地面に落ちたヤマビルにもうひとつまみ振りかけることで殺ヒル効果あり。

∙ 食塩水をスプレーする・・・飽和食塩水※を霧吹きにセットしヤマビルに吹きかける。殺ヒル効果は薄いが、ヤマビルは地面に落ちる。

∙ ミント、メントール系ローション、消毒用アルコール等をスプレーする・・・市販のこれら薬剤を霧吹きにセットしヤマビルに吹きかける。これらも殺ヒル効果は薄いが、ヤマビルは地面に落ちる。ミントについては追加で吹きかけることで殺ヒル効果あり。

※飽和食塩水の作り方:水1リッター、食塩400g。水を沸騰させ塩400gを良く溶かす(少し塩が溶け残ってもOK)。室温まで冷やし、上澄み液を飽和食塩水として使用する。

予防

 活動フィールドでヤマビルを常に見かけるようになった場合、次の予防対策を取ります。

落ち葉かき・・・いまのところ一番効果のある落ち葉かき。ヤマビルはできるだけ温度や湿度の変化が少なく、かつ近くに来た動物に取り付き易いように、落ち葉の下(落ち葉と地面の間の空間)に棲息しじっと動物が近づいてくるのを待っている。このため、フィールド内の林道、作業道や休憩場所の落ち葉を掻き出し、地表面を乾燥することでヤマビルが棲息できない環境を作り出す。結果、作業道を歩いているだけでヤマビルに取り付かれる状況はかなり改善される。

野生動物の出入り・・・ヤマビルの移動範囲は数十メートル程度といわれ、棲息範囲の拡大は主に野生生物によるものとされている。シカ、カモシカ、イノシシ等の野生生物に取り付いたヤマビルは長時間にわたり吸血のために寄主である野生生物に取り付いている。この間にも野生生物は移動を繰り返しているが、やがて吸血に満足したヤマビルは自ら野生生物から外れ、地面に落下し、落ち葉の下に隠れ、次の吸血か産卵を準備する。このためフィールド内への野生動物の侵入を抑制することができれば、ヤマビルの多の地域からの流入や、2次、3次の吸血を避けることができる。

吸血個体の捕殺・・・ヤマビルの吸血は結果的に産卵行為を誘発する(ただし、1回の吸血で必ずしも産卵が行われる訳ではなく、中には数回にわたって吸血した結果、産卵行為に入る個体もいる)。万が一、吸血された場合は、そのまま放っておくのでは無く、塩やヤマビル駆除剤(ヤマビルファイタージェット等)を使って確実に捕殺する。

ヤマビル駆除剤・・・マリックスター等のヤマビル駆除剤を広範囲に散布する。致死率は80%以上であるが、残留性が低いため散布後24時間で効果がなくなるため、定期的な散布を実施する必要がある。 一部の自治体でヤマビル産卵地のバーナーを用いた駆除を行った結果、ある程度の効果は出ているようであるが、フィールドでの火気使用というリスクがある。

最後に

 千葉県・房総半島や神奈川県・丹沢-相模原で報告されているように、野生生物の増加(生息域の拡大または移動)とヤマビル被害報告の範囲拡大は相関しています。現在はヤマビルが確認されていない地域でも近い将来ヤマビルがごく普通に観察できるようになる可能性があり、同時に天敵のいないヤマビルの流入はフィールドで活動する森づくりボランティアにとっては活動存続の脅威になりかねません。

 このため、常日頃からフィールドの動植物・昆虫の観察・実態把握を行い、ヤマビルの影が見え隠れし始めた初期の段階からの予防の実践が必要になります。

コラム

4.ヤマビルは、本当にCO2に寄ってくるのか?

 2018年~2019年に、フォレスト21さがみの森(神奈川県相模原市)で、CO2トラップを用いて実験を行いました。CO2ボンベから靴下を履かせたペットボトルにCO2を供給する装置を設置し、設置者が退去したのち、定点観測用のカメラを用いて観測をおこなった結果、画面外から現れたヤマビルがペットボトルに向かって一直線に寄ってきて、周囲をうろつく様子を観察することができました。実際にペットボトルに取り付き靴下の中に潜り込むといった行動が無かったのは、外気温より高い温度(体温)でなかったためではないかと考えますが、少なくともCO2に引き寄せられてくることは確認できました。

5.どの位生きるのか?

 室内飼育観察で最長で51ヶ月(4年3ヶ月)生存した報告があります。 また、吸血をしない場合、多くは12ヶ月(1年)は生存でき、最長20ヶ月生存した報告があります。

6.天敵がいないってことは・・・

 天敵のいないヤマビルは一度生息域となると永遠にいなくなることは無いかと思いきや、過去に静岡県と大分県で絶滅または昔は見られたが今は見られないという調査報告があります。

7.ヤマビルの嫌いなもの

 ヤマビルは前足(身体のとがった方)吸盤に温度を感知する器官が備わっており、41℃以上または6℃以下には忌避行動をとります。そこで、人間が冷たい・暑いと感じる薬品で試験をおこなったところ、メントール(冷感物質)とバニリン(温感物質)に対して忌避行動を示したと報告されています。 

★参考情報
・ヤマビル対策共同研究 報告書(神奈川県)
1980 年代以前のニホンヤマビルの分布
『ヒルは木から落ちてこない。 ぼくらのヤマビル研究記』樋口 大良 (著), 子どもヤマビル研究会(著)
ヤマビル対策には塩水スプレーよりも虫よけスプレー 」セルズ環境教育デザイン研究所

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記事文章:森中大晴(森の安全を考える会
写真:森づくりフォーラム

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