内山 節 ライブラリ

『二十一世紀の村』

上野村に間伐材を利用したペレット工場ができたのは、昨年夏のことだった。一キロほど山を上がった森のなかの工場である。間伐材利用の他に、村にはもうひとつの造る理由があった。上野村には四つの温泉がある。そのうち三つは村の観光部門を請け負っている第三セクター、上野村振興公社の経営で、うち二カ所は宿泊部門ももっている。村の温泉の湯質はよい。ところが湯温は低いから加熱しなければいけないのである。これまでは電気で加熱しているところと、灯油で加熱している温泉とがあった。

その費用が大きかった。しかもこの電気と灯油代は村の外に流れてしまう費用である。村でペレットをつくり、それで加熱することができれば、仮に必要となる代金は同じであったとしても、それは村のなかに還流するお金になる。これまで捨てていた間伐材の購入代にもなるし、その輸送やペレットへの加工部門で働く人々の収入に回るようになるのである。

地域経済を豊かにしていくにはふたつの方法がある。ひとつはその地域に入ってくるお金の量を増やす方法で、地域からの出荷物を増やしたり工場誘致、観光収入の増加をめざしたりする動きがここから出てくる。もうひとつの方法は入ってきたお金をできるだけ地域の外に出さない、つまり地域のなかでの循環を高める方法で、そうすれば地域内で回っているお金は増えることになる。仮に毎年百億円の収入がある地域があったとして、その百億円が一年のあいだに地域外に流失してしまえば、翌年もまた百億円の収入で同じことが繰りかえされることになる。ところが百億円の収入のうち五十億円分が地域に還流される仕組みができれば、計算上は翌年は百億円の収入と地域内で回されて、いる五十億円の合計が、地域の人たちの懐のなかにあることになっていく。いわば地域内自給率を高め、域内でお金が回る仕組みを高めていけば、の地域は豊かになるという考え方があり得ることになる。

上野村のペレット工場はその手段として造られたという面ももっている。いまは温泉加熱だけではなく、学校などの大型建造物の暖房用にも使う準備も進めていて、来年度から家庭用暖房にも導入できないか検討している。家庭用に使うにはストーブ価格の高さがネックで、高齢者の多い村としては購入代金に補助金をつける方法と、村が買って各家庭にリースする方法とが検討されている。

ところがここにきてもうひとつの目的が浮上してきた。それは発電にペレットを使うという方法で、もしも地域の電気エネルギーを地域資源でまかなうことができれば、環境の上からも、また現在の発電システムに依存しない地域をつくるという点でも、さらに地域外にお金を流出させないという面でも有効な仕組みを形成できる。

いま村はペレット工場と、ペレットにする前のチップの生産ラインを増強中で、最終的にはペレットを利用する領域とチップのままで利用する領域との組み合わせになりそうである。

上野村でつくるペレットは、村外に売ることは考慮されていない。もちろん将来はそういうことも検討課題になるかもしれないが、森林整備と絡めておこなっている以上、ペレットをつくるために木を切ることは検討されていないのである。森の質を高めていく範囲内で出てきた木を有効活用して、村の生活と村の森林との調和をはかっていくことが当面の課題である。その結果余剰分がでるようなら、そのときに販売も検討ずればよい。

これまでの社会では人口が多いことはメリットだった。東京はその人口の多さによって、新しい店やサービス業などが生まれていくことを可能にする都市だった。それが都市の活気をつくりだし、他方で人口減少がつづく地域は衰退していった。ところが自然の力を使いながら循環度の高い地域をつくろうとすると、人口の少なさはむしろメリットになってきたのである。上野村は現在、人口は一、四〇〇人弱である。この人口なら木質系エネルギーだけでも、村のエネルギーを自給することができる。一人あたりの自然の面積が広いということは、その自然を使う方法がみつかれば、有利さに転じることになる。

そういう夢を持ちながら上野村のペレット工場は出発した。日本の伝統的な発想では、村とは自然と人間の社会である。村の構成メンバーとして自然がいる。とすれば村人だけで村をつくるのではなく、自然にも村づくりのために働いてもらわなければならない。そんな村を上野村ではつくりたくなっている。

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※本記事は、「山林」(大日本山林会 発行)にて連載中のコラム「山里紀行」より
 第259回『二十一世紀の村』より引用しています。
(2012年12月発行号掲載)
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