※2022年3月1日記事更新
※2022年11月2日改訂
森づくりフォーラムは、地球環境基金の助成を受けて2021年3月『人工林の多様性を高める森づくり事例ガイド』ベータ版を作成・公開し、2022年3月にレイアウト編集と記事を追加した完成版を作成いたしました。
現在、PDFデータ版をどなたでもご覧いただけますので、以下よりダウンロードをお願いいたします。
『人工林の多様性を高める森づくり事例ガイド』について
生物的多様性だけでなく文化的多様性もふくめて、「多様性」という言葉は、現代社会のさまざまな場面においてキーワードとなっています。
「人工林の多様性を高める森づくり」。そのスタート地点は、市民団体として森づくりにかかわってきたなかでの危機感と期待です。
森づくりにかかわる市民団体の多くがフィールドとしているのは里山です。里山はかつて、経済=木材生産のために一斉にスギ・ヒノキなどが植えられました。けれど、その人工林がさまざまな理由から無残な姿となっているところを私たちは見てきました。光の差し込まない手入れ不足の人工林は多様性から遠く、災害などによって私たちの暮らしを脅かす危険な存在となっているところすらあります。そし て、収穫時期となっている人工林も多くなっていますが、伐採後そのまま放置という事例も聞きます。
密生しているため十分な光が得られず、細々としたスギ。
これからの森づくりはどうあればいいのでしょうか。
『人工林の多様性を高める森づくり事例ガイド』では、第1章で世界の森づくりにおける潮流を研究者や専門家に紹介していただきました。第2章では、人工林・混交林・鳥類など森林生態について、研究者による紹介とインタビューをお願いしました。そして、第3章では、より具体的に人工林の多様性を高める森づくりについて、行政・自治体、企業、広域での連携・協働事例を見ていきます。
森林のあり方は、専門家や関係業者だけでなく広く市民の関心の対象になっています。NPOや企業の社会貢献などの一環として森にかかわる取り組みが多くみられます。そこで出会う人々の森林への期待は大きくさまざまです。それは、私たちの活動のなかでも日々感じているところです。
私たちは、森林の樹木や生き物などが多種多様になればそれでいい、とは思っていません。
そこに至る過程で、より多くのさまざまな人がかかわっていくこと、かかわっていけることが「多様性のある森づくり」と考えます。
哲学者の内山節(森づくりフォーラム代表理事)は、こう記しています。
「生物多様性とは、人間を含めた生物の多様な関係を保証していくことである」
(内山節ライブラリー掲載記事『生物多様性と森林』より)
このガイドが、多様性のある森づくりにかかわっていこうとする多様な人々の、学びと実践の一助になれば、と願っています。
『人工林の多様性を高める森づくり事例ガイド』
はじめに
第1章 多様性のある森づくりに向けた新たな潮流
- 「森への回帰」時代の森とフォレスターに期待されること/柴田 晋吾
- 自然に近づく森づくり/浜田 久美子
- 環境に配慮した森林施業の国際的動向/柿澤 宏昭
- FSC認証制度と森林生態系への配慮について(生態系サービス評価制度など)/三柴 ちさと
第2章 人工林の多様性を高めるために、知っておきたい森林生態に関する知見
- (NEW!)インタビュー 森林と土壌と生物多様性/金子 信博
- インタビュー 人工林における生物多様性について/尾崎 研一
- インタビュー 針広混交林とはどんな森林か/横井 秀一
- インタビュー 人工林における鳥類の多様性について/山浦 悠一
- 針葉樹人工林を広葉樹の混じる森にしていくための道のり/正木 隆
第3章 人工林の多様性を高める森づくり 事例集
- 行政・自治体の事例
①北海道有林トドマツ人工林における保残伐施業の実証実験(REFRESH)について
②スイスと連携してフォレスターを育成 恒続林に取り組む奈良県
③山梨県の取り組み ~県有人工林における針広混交林化施業~
④横浜市道志水源林における針広混交林化
⑤(NEW!) 大杉谷の 原生的な天然林がモデル自然配植技術で広葉樹の森づくりに取り組む大台町〈三重県〉
- 企業の事例
①自然を活かした森づくり 恒続林に取り組む(株)総合農林 <奈良県>
②速水林業が取り組む環境配慮型の森林経営 <三重県>
③三井物産フォレスト(株)平取山林事務所の「三井物産の森づくり」 <北海道>
~循環林での保残伐と樹種混交化の取り組み~ - 広域での連携・協働事例
①照葉樹林の保護・復元を官民協働で取組む「綾の森照葉樹林プロジェクト」 <宮崎県>
~約1万haの森林をゾーニング、100年の長期計画で保護・復元~②森と人との共生に取り組む「高丸山千年の森づくり」 <徳島県>
~自然林再生のための調査・計画・実践~ - 市民団体の実践事例
①パッチワークの森づくりの取り組みとこれまでの成果
(認定NPO法人山村塾) <福岡県>②「多様で豊かな森林の復元」を目指した取り組み
(高尾の森づくりの会・高尾グリーン倶楽部) <東京都>③群状間伐による広葉樹林化への取り組み
(NPO法人三島フォレストクラブ) <静岡県>
「人工林の生物多様性を高める森づくりの普及啓発と市民参加型の施業モデル実践」 事業について
森づくりフォーラムは地球環境基金の助成を受けて、本事業を2020年4月から実施しております。
今年度は、「人工林の多様性を高める森づくり」の情報や事例を集め、事例ガイド集としてまとめました。一般市民の森林の多様性への関心を広げることと、市民団体が「人工林の多様性を高める森づくり」を実践していくための参考となることを目的に、本ガイドを作成しました。
2021年度からは、森づくりフォーラムの森づくりフィールドである「フォレスト21さがみの森」(神奈川県相模原市)にて、市民参加型の施業モデル実践を行ってまいります。このモデル実践についても、情報発信してまいりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。