「全国の集い」のテーマから考える「人と森林」
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※本記事は、(公社)国土緑化推進機構が発行する機関紙「ぐりーん・もあ」
2018年第83号に掲載された特集の転載記事です。
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今回の「森林と市民を結ぶ全国の集い2018 in 東京」のテーマは、『変わりはじめた「山」・「ひと」・「街」~森の価値を分かち合う~』。このタイトルには、現在の人と森林との関係への想いが存分にこめられている。森林づくり活動がどのように変わりはじめているのか、このテーマから考えてみる。
2日間で延べ250人が参加
「森林と市民を結ぶ全国の集い2018 in 東京」(以下「全国の集い」)の開催趣旨を要約すると、次のようになる。
▶「持続可能な開発目標(SDGs)」でも森林の持続可能な管理の推進が不可欠と
されるなど、森林の価値・機能への関心は国内外で高くなっている。
▶日本では、様々なアプローチから森林の価値が見直され、新たな価値観に基づく
動きも活発化しており、山と街との関係は変化し始めている。
▶持続可能な社会を形づくっていくために、森林をどう維持・管理・活用していく
かを市民の視点から考えることが重要。
今回の「全国の集い」をこれからの森林利用・管理のビジョンを共有するための場と
し、新たなムーブメントが起こるきっかけにしたい。
そうした想いから開催された今回の「全国の集い」には、2日間で延べ250人の参加者が集まり、初日の全体会やパネルディスカッションでは、新たなキーワード「関係人口」「関係案内所」などを交えたこれからの地域や森林との関わりの考え方を、2日目には各分科会を通して現在多様に広がっている森林との関わり方の事例を共有することができた。
「もともと全国の集いは、各地で森林づくり活動をしている人たちが一堂に会し、それぞれの活動を共有して情報交換を行うことで、そうした動きをより活発にしていこうということが目的でした。いまでも、そうした人たちがメインターゲットであることには変わりありませんが、森林づくりに関心のある人たちの層を広げていきたいというねらいもあります。今回は、関係人口といったキーワードの効果かもしれませんが、実際に森林づくり活動をしているわけではない人の参加も多かったように思います」と言うのは、今回の集いの副実行委員長の鹿住貴之さん(認定NPO法人JUON(樹恩)NETWORK 理事・事務局長/NPO法人森づくりフォーラム常務理事)。
森の価値を分かち合うためには、まずは共有することが必要
これまでの「全国の集い」が掲げてきたテーマを時代とともに追っていくと、市民の森林づくり活動に対するスタンスの変化を感じ取ることができる。
市民による森林づくり活動の黎明期であった初期のテーマは、自分たちの活動をアピールしていこうというものであり、目線の先には森林そのものがあった。
そうした活動がある程度定着し、活発化したことで、森林づくり活動を森林そのものだけではなく、自分たちの暮らしにまで結びつけることで広がりを図ることを意識しだしたのが第6回あたりからで、「暮らし」「社会」「地域」といった言葉も使われるようになってきている。特に東京開催時のテーマには、「都市住民の目線やニーズから森林を考えよう」といった意識があったという。
「今回も実行委員会でテーマを決める際に、当初はやはり “都市目線で” といった意識がありました。それに加えて、今回の会場の上智大学が全国の集いにあわせてSDGsをテーマにした国際的なシンポジウムを開催するということがあって、グローバルとローカルといった意味合いも加味していくことを考えました。それを森林づくり活動に置き換えれば、農山村と都市ということになりますが、それらが対立するものではなく、また別々になにかをするということでもなく、共に行動を起こしていきたいといったニュアンスから、サブテーマの “森の価値を分かち合う” という言葉が生まれました」と鹿住さん。
近年は、シェアハウスやカーシェアリングといった、モノや場所、サービスなどを多くの人と共有・交換して利用する社会的な仕組みが広がりつつある。いわゆるシェアリングエコノミーだ。そうした動きを「全国の集い」的に考えた時に、農山村と都市、またすべての市民がシェアしていきたいのは “森の価値” だということだ。
「 “森の価値” を分かち合うためには、その価値をみんなが共有している必要があります。また、農山村には農山村の、都市には都市の価値観があり、森林と市民を結んでいくためには、それらの価値観を共有していく必要があるのですが、残念ながらまだ、そこまでには至っていません。全国の集いはそういう価値観を共有していくためのものにしていきたいという思いもありました」と鹿住さん。
今様の “森の価値” を代表する4つの分科会
もちろん、かつてから「森林の公益的機能」といった言葉で森林の価値の多様さは語られていたが、それは「その多様な価値を維持するために、森林づくり活動をしよう」ということにつなげられ、結果として植林や下草刈り、間伐といった、いわゆる森林ボランティア活動に終始していたところがあった。ところが近年は、トータルとしての森林というよりは、森林の持つ個別の価値に注目して利用した活動が増えてきている。そこには都市側の価値観、農山村側の価値観といったものがはっきりと見えるものが多くなってきている。
今回の「全国の集い」の分科会は、多様化した価値観のなかから、その代表格として4つのキーワードをピックアップし、そのキーワードの中でも多様な活動を紹介してもらい、議論を進めようというものであった。そうしたそれぞれの価値観に基づく活動を知ってもらうことで、多くの人に多様化した森の価値を共有してもらうのがねらいである。
それぞれで紹介された活動や話題は、次の通りである。
- 第1分科会 癒やす…都市住民が求める「森の居心地」を探る
ホリスティック医学の考え方に基づいた森林療法、タイニーハウス/トレーラー(自由に動ける必要最小限の居住空間)、樹木葬
- 第2分科会 活かす…森の資源活用の「今」を知る
森林認証を取った林業と就業人口、薪ボイラー使用による銭湯運営、
木の質感に着目した木づかい
- 第3分科会 暮らす…山村の価値を世界に開く
焼き畑の保存・伝承、薪の自給事業などの森林の六次産業化
- 第4分科会 育む…フォレスト・ラーニング~森に学ぶ~
都市の保育環境でもできる自然遊び、林業と学校での森林学習との連携、
林業と人材育成
「かつての全国の集いでの分科会の登壇者といえば、各地で森林づくり活動を行っているNPO法人の人が中心でした。ところが今回の全国の集いでは、NPO法人の人はほとんどいません。もちろん、従来のような森林づくり活動がいまも大切であることに変わりありませんが、市民の森林への関わり方が、必ずしも森林に直接関わるかたち、またボランティアといったかたちだけではなくなってきたということを象徴しています。それもまた、変わりはじめたことの表れと言えるのかもしれません」
「ひと」が「山」と「街」を結び、変えていく
「そしてもうひとつ、変わりはじめたことを象徴しているのは、今回の全国の集いのメインテーマに “森” “森林” といった言葉が使われていないことです。これは全国の集いでは初めてのことです。さすがに森林を中心とした集まりなので、サブテーマには“森の価値” という言葉を入れましたが…(笑)」と鹿住さん。
そこには、現在の多様化している森林づくり活動を表現するには、森”“森林”といった言葉ではどこか狭く感じるため、森林を含めた地域や、地域での人の営みもイメージさせたいといった考えがあった。そうしたことから、森林がある地域を「山」、一方の都市を「街」と表現することになったのだという。
そして、それらの間に置かれているのが「ひと」である。1日目の基調講演やパネルディスカッションのキーワードとなっている「関係人口」とは、そこに住んでいなくても地域に関わる、いわゆる「観光以上、定住未満」と表現される人たちのことを指す新しい概念である。こうした人たちがこれからの地域づくりの担い手として注目されており、この「関係人口」という言葉は国の地域創生の施策にも盛り込まれている。そうした人をいかに取り込んでいくかが、これからの森林づくり活動をより活性化させていくためのポイントにもなっていくのだろう。
森林そのものは、そうそう変わるものではない。地域としての「山」「街」にしてもそうだろう。しかし、「ひと」は変わっていくことができる。だからこそ、現在の森林づくり活動は多様化をみせているのだ。そして、「山」「街」を結ぶのも、それらを変えていくことができるのも、やはり「ひと」である。今回のメインテーマで、「山」と「街」の間に「ひと」を置いたのは、そういった意味も込められている。森林づくり活動が、フィールドとなっている森林ありきではなく、そこで活動している人や活動内容ありき、に変わってきたということでもあるだろう。つまり、「変わりはじめた」のは、森林づくり活動に関わる人たちのスタンスなのだ。
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※本記事は、(公社)国土緑化推進機構が発行する機関紙「ぐりーん・もあ」
2018年第83号に掲載された特集の転載記事です。
森林と市民を結ぶ全国の集い2018 in 東京
(主催:国土緑化推進機構/森林と市民を結ぶ全国の集い2018 in 東京 実行委員会)
2018年6月16日~17日@上智大学 プログラム・実施レポート(PDF)
全国の集いFacebookページ:https://www.facebook.com/tsudoitokyo/
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