森づくりフォーラム・ニュース

2018年10月16日 森林と社会と暮らし

『森林ボランティアの未来』講演:松村 正治 さん (恵泉女学園大学 人間社会学部 准教授)

『森林ボランティアの未来』
 講演:松村 正治 さん 
  (恵泉女学園大学 人間社会学部 准教授/NPO 法人よこはま里山研究所 理事長)

  ※本記事は、2018年2月17日(土)に行われた、「緑の助成セミナー2018」
 (共催:国土緑化推進機構、森づくりフォーラム)にて行われた、プログラム
  での講演の文字起こし記録となります。セミナー全体のレポートはこちらです。
  森林ボランティア運動のはじまりから、現在の市民主体の森づくり活動の動向、
 そしてこれからの活動展開に向けての指針について語られています。

 今日のお題は「森林ボランティアの未来」ということですが、あまり森林ボランティアにこだわらないで話をしたいと思います。先程、富井さんから、「森林ボランティア
という活動自体を、少し裾野を広げて見ていった方がよい」という話もありましたので、それを踏まえた話をしたいと思います。
 まずは簡単に自己紹介させていただきます。私は、恵泉女学園大学というところで教員をしていて、コミュニティサービスラーニングという、ボランティア活動を通した
体験学習等を担当しています。また社会活動として、よこはま里山研究所(通称NORA(ノラ)の代表をしており、森づくりフォーラムが行っている「森林づくり活動の実態調査」の検討委員にもなっています。

 まずは、私が代表を務めている、NORAの活動を紹介したいと思います。NORA は2000 年に設立し、2001 年に法人格を取得しています。全国に森林ボランティア、里山保全の団体がたくさんありますが、NORA は都市住民が中心となって活動を行っていますので、里山保全だけではなく、保全を通して私たちの暮らしの質を高めていくことを目的としています。会員数は100 名程度で、私のような40 歳~ 50歳代が中心の団体です。

 里山を民俗学的に捉えると、中心に集落があり(ムラ)、周りに田んぼや畑、沼があり(ノラ)、その周りに林野があり(ヤマ)、その先にオクヤマがあるかたちです。都市住民の場合、もちろんムラ、ノラ、ヤマの連続性は残っていないのですが、NORA は、ヤマ仕事やノラ仕事に出かけ、ムラをつくり、非日常的なハレの日を楽しむ生き方をして、イキモノが豊かになるという事業に取り組んでいます。「ヤマ」「ノラ」「ムラ」「ハレ」「イキモノ」の中にそれぞれ個別の事業が入っていて、多いときで一月に30くらいの事業を行っています。具体的には、「ヤマ」として山仕事(森林・竹林の保全、木材の有効活用)、「ノラ」として野良仕事(農地の保全・活用)、「ムラ」としては「はまどま」というフリースペースを拠点としたコミュニティづくり(野菜の市や食事会、竹細工教室、土間仕事など)、「ハレ」としてイベント出展、そして「イキモノ」として里山探索や自然観察等を行っています。

 都市の場合、ムラ、ノラ、ヤマで言うと最初にヤマが荒れ始め、地主が管理をしなくなりました。次にノラが荒れてきて、都市農業も休耕地化していきます。そこのとこ
ろをどうしていくかについて市民が参加して、市民自治を進めていく枠組みをつくっていこうとしているのがNORAというわけです。

森林ボランティアのこれまで

 いまにつながる森林ボランティアや里山保全の市民運動は、首都圏を考えると80 年代から始まっていると思います。90 年代には、例えば「第1回全国雑木林会議」や「第1回森林と市民を結ぶ全国の集い」が行われ、また全国的には「森づくりフォーラム」が、横浜には「よこはまの森フォーラム」ができるなど、ネットワーク団体ができはじめました。95 年はボランティア元年であったこともあって、90 年代は爆発的に広がっていったと言えます。それを支援するような、森林ボランティアや里山保全に関する本もさまざまに出版されました。

 2000 年代に入ると、例えば里山を保全するということも国家戦略として位置づけられるようになりました。2010年に名古屋で開催された生物多様性条約COP10 では、『里山イニシアチブ』ということで、世界にそうした姿勢を発信していますし、林野庁も森林ボランティア支援室を2003 年に立ち上げ、2013 年からは森林・山村多面的機能発揮対策交付金でボランティア団体の活動の支援が図られています。
 このように、2000 年代になってからは、行政による支援や事業が進んできています。ふりかえると、80 年代に運動として始まり、90 年代には全国に広まり、2000 年代からは行政が後押ししてくれるようになったということです。

森林ボランティアのいま

●「 メンバーの高齢化」といった課題が解決されない理由
 今日において森林ボランティア活動は、だんだんと縮小しているのではないかと言われています。中には活動内容の多様化、高度化ということもあるのですが、「メンバーの高齢化」「スタッフの活動資金確保」といった課題は解決されておらず、課題として挙がり続けています。ここになにか問題があるのだと思います。
 これらに対しては、いろいろな見方があります。例えば、活動団体が増えていないことに対しては、「本当にそれが問題なのか」という提起をしている方もいます。リーマンショックや東日本大震災以降は、都市生活の脆弱な暮らしよりも、地域に根差した農山村の仕事や暮らしをする人々が増えているのではないかということです。

 地域おこし協力隊などの地方創生策の支援もあって、確かに田園回帰の兆しも見えています。90 年代くらいまでであれば、森や山村というと森林ボランティアという入口しかなかったかもしれませんが、いまはいろいろな支援策があって、いろいろなやり方で入っていっているので、それはそれでよいのではないかという考え方もあります。
 私は、それでもやはり、なにか解決できない理由があるのだと思います。その1つは、その課題がまだ深刻だと思われていなくて、解決に向けての団体の本気度が足らないということです。これでは、そのうち解決する体力がなくなってしまい、団体自体がなくなってしまいます。
 2つ目は、行政などの活動支援策が、団体が抱える構造的な問題まで届いていないということです。活動に対しては支援されますが、それでは活動自体が目的化してしまい、構造が変わっていくための支援にはなりません。3つ目は、世代交代したいと言っても、活動団体が若い人のニーズに合っていないのでは、といういうことです。

● ハードルを下げれば若い人たちも参加する
 では、そうした課題に対してNORA がどのようなアプローチをしているかと言うと、例えば2012 年からは「よこはま里山レンジャーズ」という事業を行っています。

 これは、自然環境復元協会という別のNPO と協力している活動で、いわゆるレンジャーというボランティア登録制度を持っています。約2200 人がボランティア登録をしていますが、その人たちに「週末にここで自然環境を保全するボランティア活動がある」と発信すると、20 ~ 30 歳代の方が多く集まってきます。ここで大事なのは、実は若い人たちは森に入りたくないわけではない、ボランティアをしたくないわけでもない、ということです。では、何で入ってこないかというと、高齢者ばかりいるグループに若い人が1人で入ることが、非常にハードルが高いのです。ならば、同じ思いをもってボランティア登録をしている人を10 人まとめて連れていくことでハードルを下げてしまおうということです。そのようにして、若い人たちが参加しやすい環境をつくっています。

 このレンジャーズは、首都圏全域でのプロジェクトなのですが、私たちは横浜でのコーディネートを行っています。合計6つのエリアに年間通して12 回ぐらい、レンジャーズの人たちを連れていっています。「週末にどこどこでボランティア活動がありますよ」とメールで伝え、10 ~ 15人で締め切って、その人たちに「日曜日にどこどこに来てください」と連絡をします。当日はボランティアリーダーがそこに来て、参加者を一緒にフィールドに連れていって活動をします。一体感を出すため、ユニホームもつくりました。実際に参加してくるメンバーも比較的若い人が多いので、大切なのはハードルの低さだと思います。

 この活動は、基本的に午前中で終了するようにしています。午後まで実施すると疲れてしまいますし、むしろ「もう少しやりたい」という気持ちを残して終わらせた方が、
「また次も来たい」という気持ちになると思います。また若い人たちが来ると、地元のボランティアの方々が歓待して、「あれ食べろ、これ食べろ」というようになって疲れてしまい、その疲れが次の日の仕事等に影響してしまうので、ちょこっとボランティアをして気持ちよくなることを勧めています。ただ、これだけだと物足りなくなってくる人もいるので、ボランティアリーダーを育てる育成講座も、スキルアップのために実施しています。これは、イギリスのリーダー養成プログラムを、日本環境保全ボランティアネットワークという団体が日本版にしたマニュアルを使ってやっています。

● ボランティアからシゴトへ
 こうして若い人たちを入れて世代交代を図るべく取り組んでいるのですが、実は「あまり上手くいっていないのでは」と個人的に思っています。そうしたアプローチだけではダメだと言うことです。3.11 後の現在、もっぱら消費だけするのではなく、出来るものは自給して、手が届きにくい政治や経済に左右されないで自律的に仕事や暮らしをつくっていこうという動きは、田園だけではなく都市近郊でも強まっています。
 里山資本主義に代表されるような動きかもしれませんし、最近は森のようちえん、森林セラピー、フォレストアドベンチャー、獣害対策といったように、森林にこれまでの森林整備とは違うアプローチをしている人たちが増えています。また一部では、都市近郊で新規就農したり、新しい森林環境教育で起業した人たち、あるいは週末マルシェのように手づくりしたものを販売するといった活動をする人も増えていて、自分たちのスキル、手元にある素材を活かして、それを仕事につなげています。

 そういうことを踏まえて、最近はボランティアの世代交代ということだけではなくて、ボランティアからシゴトへというアプローチも行っています。
 都市近郊、特に多摩丘陵では、優れた里山の多くは公的な緑地保全制度の中に置かれています。そこではボランティアの活動が推奨されるのですが、若い人たちがずっとボランティアだけでやっていけるかというと、将来が不透明な現代では無理だろうと考えています。環境意識がとても高くても、ボランティア活動だけでは続きません。何かしらの小遣い稼ぎでもいいので、それをシゴトにつなげていくことを少し考えていかなければならないと思っています。
 もう1つ、最近はNPO というスタイルではなく、株式会社とか一般社団といった法人格を選ぶところも増えてきています。それは、シゴトということを明らかにイメージしているからです。

● 公から民へ
 そう考えていくと、行政との連携も大切になっていくのですが、公的な制度の下では「火や刃物は使ってはいけません」とか言われてしまいます。これは里山文化を継承する上で大きな制約になります。
 民有地であれば、自然学校、森のようちえん、製材加工、木工品の販売なども可能になりますので、最近私たちは、行政との連携を少し遠のけて、役所が管轄する公有地で
の活動から有志による信頼ベースの民有地での活動へとシフトしてきています。

森林ボランティアのこれから

 これまでの話を少し整理すると、人々と里山、森との関係は、例えば高度成長期の前であれば、農家が里山にヤマ仕事、ノラ仕事で手入れをして食やエネルギーを得ていたという時代があり、90 年代は、それに市民ボランティアが入ってきて「生きがい」「やりがい」を得てきた時代です。けれど、これは担い手の高齢化が進むと持続できません。そこで近年は、社会的起業家や新規就農者がそこに入ってきて、新しい生態系サービス事業を行う環境教育や健康福祉、街づくりなどの新しいビジネスを展開してきている、ということです。

●「 シゴトづくり」のフレーズがキャッチーな時代に
 2016 年1 月、「まちの近くで里山をいかすシゴトづくり」というキャッチフレーズでワークショップを行いました。水曜日に2 週続けて行ったのですが、おかげさまで延べ140 名の方々が集まりました。このフレーズが非常にキャッチーであり、関心があることがわかったので、早速プロジェクトチームをつくり、現在は100 人ぐらいの方々が参加しています。いま、時代は会社から個人、組織からチーム、所有からシェアという形態になっています。このプロジェクトチームは、その中で里山の資源や空間を活用した社会的起業を支援するプラットフォームづくりを目指しています。

 いま、私がシゴトづくりのために取り組んでいるのは、人々のネットワークづくり、活動を支える理念づくり、人と情報が集まるサイトづくりです。例えば、1 月には「まちの近くの里山をいかすシゴトづくりフォーラム」というかたちで、ツリークライミング、森のようちえん等に取り組んでいる方々に来ていただきました。最近の方々は、「森と踊る株式会社」とか「原っぱ大学」とか、ネーミングからして違います。つまり、ターゲットが違ってきているのです。
 また、例えば「自然体験・環境教育」といったテーマを決めて実践者の人たちに集まってもらい、ゼミナール形式で実際に皆さんが取り組んでいることを話してもらったりしています。このゼミナールをこれまで3 回実施して思ったことは、「こうしたことで専業で食べていくには、まだまだハードルが高いな」ということです。

 一方で、仕事観やワークライフバランスを考えれば、すでに取り組んでいる人もたくさんいます。「年収300 万円でも、パートナーと一緒になんとか食べている」と言う人もいます。これは仕事観の違いです。「いくらもらえなければ仕事じゃない」というのも「一人で稼がなければいけない」というのも、仕事観の違いです。また、つくることを楽しんで支出の少ない暮らしをしていくことを目指すのであれば、一番気持ちよく暮らしていける収入と支出のバランスをどうすればよいかといった選択ができる時代になってきているということです。

 ここまでお話ししてきたような私の思っていることや、多摩丘陵で行っていること等を発信するためにWeb サイト『里山コネクト』もつくりました。こちらも参加している人は若い方が多いです。

里山コネクトのWEBページ

● やりたいこと、出来ること、必要とされることのバランスが大事  
 こうした動きは、森林ボランティアだけをターゲットにしたら非常にもったいないと思います。森林の近くにある田んぼや畑を活用したいとか、エネルギーを自給したいという人もいるし、マルシェに参加したいという人もいます。そういう人たちもターゲットになると思います。また、ボランティアだと外れてしまうところも、シゴトであれば一緒に取り組めますという人もいます。森林とボランティアを掛け合わせてターゲットを狭めてしまうのではなく、むしろつなげて広げていったほうがよいと思います。

 また昨日の話でもありましたが、いろいろな人を取り込もうと思うと、敷居を下げたりとか楽しさを前面に出す必要がありますが、一方で、社会貢献・環境貢献をしたいという気持ちは確かにあると思います。敷居の低さ、間口の広さといった、いろいろな方向から関わってもらえるようにすることが、新しい人を取り込むチャンスになるのは間違いありませんが、そうすると、その団体の中心となる価値とはなんだ、という問題も出てくるでしょう。団体の中でいろいろと議論しながら、これまで守ってきた価値や文化があるはずです。それを新しい人たちとどうやって共有していくのか。もちろんこれも、バランスが必要なのだと思います。

 多くの人が自発的に参加するということがボランティア団体の良いところだと思いますが、一方で、そればかりをずっとやっているとシゴトにつながる専門性をどうやって身につけていくのか、という面もあります。ボランティアコーディネートも非常に大事な専門性ではありますが、では森林ボランティアの専門性というのはなんでしょうか。私たちは、あたり前のように自分を「普通の人たち」だと思っていますが、他の人たちからは、ボランティアをする人たちを怪しい人と見られることも少なくありません。だからこそ、「私たちには、こういう専門性があります」ということを、客観的に説明できた方がよいと思うのです。

 昨日は連携の話もありましたが、もちろん連携は非常に大事ですし、活動の幅を広げてくれます。その一方で、いままでであれば団体の中でツーカーで通じていたものを、説明をしなければいけなくなるわけです。特に、助成をいただいている場合などは、領収書等のこまごまとした資料を出さなければならなくなります。その付き合い方もバランスだと思います。

 やりたいこと(want)、出来ること(can)、必要となれること(need)のバランスです。結局、やはり正解はないと思います。だからこそ、どこかで私たちはそれぞれ、決断をしなければいけないし、決断したことをしっかりと覚えておく必要があります。決断するということは、そこに飛躍があるのです。だから、成功も失敗もします。苦しくなったら、やり直せばよいのです。

● 森林ボランティアの価値は、これからの時代を生き抜く力を培えること 
 最後に、森林ボランティアの未来ですが、私は森林ボランティアに非常に可能性を感じています。特に若い人たち、学生たちとつきあっていく中で思うこととして、彼らには未来が見通せません。昔のように経済が成長し続け、収入が右肩上がりで上がっていくことは、もうないと思います。そのような不透明な未来を生きていくためには、森林ボランティア活動を通して培われる力が生きてくると思います。

 私たちの社会ではこれまで、お金を稼ぐ力をずっと身につけようとしてきました。しかし、それだけでは社会が十分に安定することはなくて、やはり環境をつくる力、社会をつくる力が大切なのだと思います。では、それをどこで学ぶのかということですが、私自身は、森林ボランティア活動で身につけさせてもらったと思っています。そして、それさえあれば、実はこれからの不安定な世の中がどうなろうと、おそらく生きていけるだろうと思います。それこそが、森林ボランティアの大きな価値だと思います。
                                  (終わり)

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緑の助成セミナー2018 (共催:国土緑化推進機構/NPO法人森づくりフォーラム)
2018年2月16日~17日実施
プログラム・実施レポート
→ http://www.green.or.jp/bokin/18021617bokin
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