生物・人間の多様性を守る=多様な関係を守る
生物多様性を守るとは、生物が暮らすことのできる多様な関係を守ることである。同じように社会の多様性、人間の多様性=さまざまな個性を守ることも、人間社会の多様な関係を守ることによって成立する。
このあり方は、経済に対してもいうことができる。
多様な経済のあり方からの単純化
かつて私たちが習った経済史は、次のようなものであった。封建時代の終盤に商品経済が発達してくる。この商品経済から資本主義が生まれ、歴史は資本主義へと転換していく。
確かにこのとらえ方は一面では妥当である。しかし半面では正しくない。なぜなら経済はいつの時代でも混合経済としてしか成立しないからである。封建時代にも多様な経済が存在していたし、資本主義になっても非資本主義的な経済は展開する。時代の違いは、主導的な経済がどこにあるか、だけである。
資本主義が成立した後も、資本主義とはいえない単純商品経済は存在したし、商品経済ではない経済活動も展開していた。たとえば職人や町の商人、大道芸人などが行っている経済活動は資本主義とはいえないし、自家消費用の作物をつくる経済活動は商品経済ですらない。その意味では資本主義になってもなお、多様な経済は混在してきたのである。
ところがこの3,40年の間に、私たちの経済は急速に多様性を失っていった。町の商店はつぶれ、大型店に取って代わられていった。職人たちも廃業を余儀なくされる人たちが後を絶たなかった。農民の数も減少し、食事づくりのような非商品経済も外食産業や食材加工企業に浸食されていった。資本主義的な経済が急速に縄張りを拡大していったのである。こうして今日の経済関係は単純化していった。
ある意味ではそのことが私たちの社会に息苦しさを与えているのである。多様な経済関係が混在し、それらが相互に影響を与えあう社会の方が、自由度の高い社会だということができる。
ボランティア活動も経済活動の一つ
そして、そのような社会が生まれたがゆえに、今日の社会には資本主義とは異なる経済活動をつくりだそうとするさまざまな試みがはじまっているのである。たとえば私たちが行っているボランティア活動もそのひとつである。この活動も経済活動であることに変わりはない。ときにはこの活動からなにがしかの生産物が生まれてくるときもあるし、それらが商品として販売されることもある。ときにはサービスが提供され、また、それは学びの場であったり、自分たち自身が享受するサービスシステムであったりする。そういう経済活動なのである。資本主義的な経済活動との違いは、活動の目的が貨幣的利益の獲得やその増大にはないことに、つまり市場的利益にはないことにある。
経済という視点からみるなら、ボランティア活動も経済活動であることに変わりはない。
新しい関係を経済に生み出そうとする試み
さらに最近ではソーシャルビジネス企業が続々と生まれてきている。ソーシャルビジネスとは目的が自分たちの考える社会的使命の実現にある企業のことで、これもまた貨幣的利益の増大が目的ではない。ただし社会的使命を継続的に実現していくためには、継続性を保証できるビジネスモデルは必要だと考えている。今日では地域を活性化するための農村ビジネスや、都市でのコミュニティカフェ、リサイクルシステムの確立を目指す企業、途上国の伝統的な暮らしを守るために取引する企業など、さまざまな形が生まれている。
経済的な関係が一元化されていったとき、逆に新しい関係を経済に生みだそうとする試みがはじまったのである。そういう視点から、今日のさまざまな動きを見ていってもいいと、私は考えている。
2012.02.01 森づくりフォーラム会報138号寄稿